[調整対象固定資産、高額特定資産]居住用不動産を買って、還付を受ける自販機スキームはどのように防がれたのでしょうか?

A.平成22年に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の改正が行われ、
平成28年改正でその不備を埋める形で、高額特定資産の仕入れ等を行った場合の規定が
創設されました。

自販機スキームとは、居住用不動産を購入して全額の還付を受けるが、
その後の調整対象固定資産の調整計算を免れる手法でした。(税率は現在と合わせています。)

2019/4/1 2020/4/1 2021/4/1
第一期 第二期 第三期
⑴⑵⑶ ⑷⑸
課税売上(自販機) 110,000円 0円 0円
非課税売上(家賃) 0円 5,000,000円 5,000,000円
課税売上割合 100% 0% 0%

 

⑴不動産賃貸を事業とする会社を設立、第一期に課税事業者となります。
・消費税課税事業者選択届け出(第一期末までに提出)
・新設法人(資本金1,000万円以上で設立)
(特定新規設立法人については割愛)

⑵居住用不動産を購入
例)建物価格2,200万円土地価格3,000万円
通常であれば、居住用不動産は非課税売上対応の課税仕入れのため、
控除することができません。(非課税売上を生むことを目的とした課税仕入れ)

⑶第一期中に居住用不動産の貸付けを行わなず、自販機を設置するなどをし、
課税売上割合100%の課税売上の期間を作ります。
課税売上高が5億円未満で、かつ、課税売上割合が95%以上の期間になるため
第一期は全額控除となり、2,200万円に係る消費税200万円の還付をうけます。

通常であれば、調整対象固定資産(税抜100万円以上、付随費用を除く)を購入している場合、
第三期に課税売上割合の通算が行われ、還付された消費税を取り戻す計算が行われます。
(課税仕入を行った期の課税売上割合が、3期分の平均の課税売上割合と比べて変動が大きいかどうかを
判定して、変動差が5%以上で変動率が50%以上に該当した場合に差分の消費税を調整します。

調整対象固定資産の変動の計算(税額計算は、便宜上、地方消費税込みの額としています。)

①購入した資産が税抜き100万円以上

②仕入れ時の課税売上割合
100%

③通算課税売上割合の計算
100,000円(税抜)
5,000,000円+5,000,000円 = 2%

④変動差
②-③=98%≧5%

⑤変動率
③98%
①100% = 98% ≧50%

変動差が5%以上で、変動率が50%以上のため、調整対象固定資産の変動の計算を行います。

⑥仕入れ時に還付を受けた税額
200万円

⑦通算課税売上割合で計算した場合の消費税額
200万円×2%=4万円

⑧調整税額
200万円-4万円=196万円

この計算が行われることにより、還付を受けた200万円のうち、196万円を三年後に納税することになり、
本来還付を受けることができなかった消費税額が取り戻されます。

⑷課税事業者選択不適用届の提出
ここからが自販機スキームになります。
第二期に課税事業者選択不適用届を提出することにより、第三期は免税事業者となります。
これにより、⑶の調整計算は行われず、還付を受けた消費税が取り戻されなくなります。

⑸簡易課税制度選択届出書の提出
⑷の提出が行えない場合(基準期間の課税売上がある場合など)には
簡易課税制度選択届出書の提出を行います。
簡易課税制度を選択している場合には、⑶の調整計算は行われませんので、
これにより還付を受けた消費税が取り戻されなくなります。

この⑷と⑸の提出を不可にする、または資産の購入前に提出をしていても無効にする改正が平成22年に行われ、
自販機スキームは一旦防がれた形となりました。新設法人、特定新規設立法人に関しては、調整対象固定資産を
購入していた場合には、三年目も原則課税の課税事業者となるようになりました。

ですが、この規定には、依然として自販機スキームの適用を受けることができる不備がありました。
ⅰ)課税事業者の強制適用期間の経過後に固定資産を取得する場合
ⅱ)建物が棚卸資産である場合(調整対象固定資産の対象から棚卸資産が除かれているため)
ⅲ)資本金1,000万円以上の法人を設立し、基準期間がない事業年度経過後に固定資産を取得し、
その翌期を免税事業者とするケース
ⅳ)特定期間の給与を1,000万円にして課税事業者となる場合
(課税売上高に代えて特定期間の給与とすることができる規定であるため、課税事業者となることができる)
ⅴ)特定目的会社(SPC)が公共施設等を建設などした場合における簡易課税制度選択による二重控除
これを防ぐためにできたのが、高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例です。

事業者免税点、または簡易課税の適用を受けない期間中に高額特定資産の仕入れ等を
行った場合、課税事業者、かつ、原則課税が強制されることになります。

高額特定資産とは棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、その価額が税抜き1,000万円以上のものをいいます。

1、棚卸資産、または固定資産として購入
2019/4/1 2020/4/1 2021/4/1
第一期 第二期 第三期
事象
消費税納税義務 課税(原則課税) 課税(原則課税) 課税(原則課税)

 

事業者免税点、または簡易課税の適用を受けない期間中に高額特定資産の仕入れ等を
行った場合、課税事業者、かつ、原則課税が強制されることになります。

⑴居住用不動産を購入(棚卸資産、固定資産として購入)
例)建物価格2,200万円土地価格3,000万円

建物価格が税抜き1,000万円以上となっているため、⑴の事業年度の初日(2019年4/1)
から三年を経過する日(2021年3月31日)の属する課税期間まで納税義務は免除されず、
簡易課税制度も選択することができません。

自己建設の高額特定資産の場合は、強制期間がさらに長くなる可能性があります。

2.自己建設の高額特定資産の場合
2019/4/1 2020/4/1 2021/4/1 2021/4/1 2022/4/1
第一期 第二期 第三期 第四期 第五期
事象
消費税納税義務 課税(原則課税) 課税(原則課税) 課税(原則課税) 課税(原則課税) 課税(原則課税)

 

⑴居住用不動産の建築を開始
例)建設費の累計が1,000万円以上となる

⑵居住用不動産の建設が完了
建設が完了した日の属する課税期間の初日(2021年4/1)以後、
三年を経過する日の属する課税期間(2023年3/31)までの各課税期間については
納税義務は免除されず、簡易課税制度も選択することができません。

調整対象固定資産と高額特定資産の違い

調整対象固定資産 高額特定資産
対象資産 固定資産 固定資産及び棚卸資産
資産の金額 税抜100万円以上(付随費用を除く) 税抜1,000万円以上(付随費用を除く)
課税事業者強制が適用される取得時期 課税事業者の選択届の強制適用期間、新設法人の基準期間がない期間(原則課税) (原則課税)

 

これにより、当面、基準期間の課税売上高が1,000万円以上の課税期間に
1,000万円未満の資産を購入した場合などを除き、三年縛りの適用を受けることに
なりました。