自己株式の取得に関する注意事項
株式会社甲社(会社の規模は小会社に該当)
発行済株式総数 30,000株
株主構成 純資産の部
A氏(甲社代表) 10,000株 資本金 3,000万円
B氏(甲社取締役) 10,000株 繰越利益剰余金 9,000万円
C氏(甲社取締役) 10,000株
合計 30,000株 合計 12,000万円
今回、A氏が役員を退任し、退職するので、A氏保有の甲社株式を購入することを考えています。
しかし、B氏、C氏ともA氏保有の株式を購入する資金がないため、甲社でA氏保有の株式を取得することを検討しています。
税務上注意すべきことはありますか。
甲社がA氏保有の株式を購入する場合は自己株式の取得になります。
自己株式の取得は税務上資本の払い戻しになるため、購入価格によってはA氏にみなし配当(配当所得)が発生します。
B氏やC氏がA氏の株式を購入する場合と甲社が購入する場合のA氏の課税関係を比較します。
前提条件 A氏の取得単価 一株あたり1,000円
売却単価 一株あたり3,000円(適正な時価)
個人と個人の売買 | 個人と甲社の売買 | ||
売却代金 |
3,000円×10,000株=3,000万円 |
売却代金 |
3,000円×10,000株=3,000万円 |
所得の種類 | 譲渡所得(分離課税) | 所得の種類 | 配当所得(みなし配当:総合課税) |
売却単価-取得単価 | 売却単価-1株あたり資本等 | ||
(3,000円-1,000円)×10,000株=2,000万円 |
(3,000円-1,000円)×10,000株=2,000万円 ※一株あたり資本等 3,000万円÷30,000株=1,000円 |
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所得税 |
税率:15.315% |
所得税 |
税率:累進課税(最大で45.945%) |
2,000万円×15.315%=3,063,000円 |
2,000万円×40.84%-2,796,000円 |
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=5,372,000円 |
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住民税 |
税率: 5% |
住民税 |
税率:10% |
2,000万円×5%=1,000,000円 |
2,000万円×10%=2,000,000円 |
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手元に残るお金 |
25,937,000円 |
手元に残るお金 |
22,628,000円 |
上記の表により、甲社が株式を買い取ることによりA氏の手元に残るお金が少なくなります。
また、甲社の既存の株主であるB氏やC氏の株の評価額が増加する可能性があります。
甲社の純資産の部を参考に計算してみます。
甲社の一株あたりの評価額
自己株式購入前 | 自己株式購入後 | ||
純資産の部 |
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純資産の部 |
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資本金 |
3,000万円 |
資本金 |
3,000万円 |
繰越利益剰余金 |
9,000万円 |
繰越利益剰余金 |
9,000万円 |
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自己株式 |
△3,000万円 |
純資産の部合計 |
12,000万円 |
純資産の部合計 |
9,000万円 |
発行済株式総数 |
30,000株 |
発行済株式総数 |
30,000株 |
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自己株式数 |
△10,000株 |
議決権株数 |
30,000株 |
議決権株数 |
30,000株-10,000株=20,000株 |
一株あたり類似業種比準価額:2,000円 一株あたり純資産価額:12,000万円÷30,000株=4,000円 評価額:2,000円×0.5+4,000円(1-0.5)=3,000円 |
一株あたり類似業種比準価額:2,000円 一株あたり純資産価額: 9,000万円÷20,000株=4,500円 評価額:2,000円×0.5+4,500円(1-0.5)=3,250円 |
甲社が自己株式を取得したことにより、一株あたりの評価額が3,000円から3,250円になったため、
B氏やC氏の株の評価額が250万円増加しています。
今回の取引は著しく低い価格(時価の1/2以下)の取引でないため、みなし贈与の適用はないと考えられるが、
この250万円について、税務署からみなし贈与の指摘を受ける可能性も考えられるので、注意が必要です。
参考:贈与税(税率:累進課税)
(250万円-110万円)×10%=140,000円